2019年4月1日をもって、サステイナビリティ学連携研究機構は、東京大学未来ビジョン研究センターに組織統合しました。本アーカイブサイトはリンク等が正常に機能しない場合があります。最新の活動状況は、IFIウェブサイトをご覧ください。
2018年8月6日(月)
2018年1月20日(土)、東京大学安田講堂において「第2回イオン未来の地球フォーラム」が開催されました(公益財団法人イオン環境財団、東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)、フューチャー・アースの共催)。「いま次世代と語りたい未来のこと―持続可能な消費と生産―」をテーマとしてNPOやNGO、企業、政府機関、教育機関、研究機関など様々な分野から、約700名の老若男女にご参加いただきました。当フォーラムは全5回のシリーズで構成され、地球の環境変化に伴って起きている自然と人間社会における問題について、最新の科学的知見をわかりやすく解説するとともに、それらの問題や現象が起こっている背景、解決すべき課題と方法について、参加者とともに「考える場」と位置付けています。国際協働研究プラットフォーム「フューチャー・アース」の理念に沿って対話型討論を行い、持続可能な社会を世代や立場を超えてともにデザインするコ・デザインの手法も試みています。
第2回目となる今回は、フューチャー・アースが設定した10の「知と実践のためのネットワーク」のテーマの中から『持続可能な消費と生産』を取り上げ、具体的な課題解決について、参加者とともに考えました。冒頭に、主催者であるイオン環境財団 岡田卓也理事長と東京大学IR3S 武内和彦機構長よりご挨拶し、その後、3つの基調講演として専門家に現代の問題をわかりやすく解説していただきました。さらに後半では、会場の参加者を交えたパネルディスカッションを行い理解を深めました。
まず初めの基調講演として、慶應義塾大学経済学部・細田衛士教授より、「持続可能な消費と生産を考える」のタイトルで、日本の若い世代がいかに「モノの消費」から「経験の消費」へ移行しているかについて、具体的な事例を用いてご説明いただきました。例えば、衣類や車など「モノを売る」というモデルに基づいていた産業の一部が、今やサービス(例えば衣類のレンタルやカーシェアリング)を提供することへ移行しつつあるとの紹介がありました。細田教授はまた、「モノ」ではなく、「いいね!」などに代表される「価値観の共感」といったワードが、私たちの消費行動の中で急速に主流化されていることにも言及されました。
2番目の基調講演では、東京大学農学生命科学部 八木信行教授により「漁業の持続可能性に関する国際機関での取り組み」を紹介していただきました。今日、世界中の漁場で起きている時系列的な変化や地理的・文化的多様性に加え、「閉店セール」効果として、絶滅危惧種の魚類がむしろ駆け込み的に消費されている現状の紹介もあり、会場の参加者にインパクトを与えました。
さらに、イオン株式会社環境・社会貢献・PR・IR担当の三宅香執行役は、「イオンにおける持続可能な調達と消費の取り組み」と題し、初めにイオンのサステイナビリティ基本方針を示した後、生産地の保護や認証制度を活用した調達、商品の表示の工夫や消費者の啓発活動を目指した店舗での具体的な取組みを紹介しました。同時に流通業界全体が持続可能な消費と生産の両方の責任を担っていることについても言及しました。また、加えて「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals ;SDGs) への貢献が必要であることも述べました。
後半に催されたパネルディスカッションでは、国立環境研究所の藤田壮センター長にモデレータを務めていただき、パネラーに、基調講演者の3名に加え、地球環境戦略研究機関(IGES)の粟生木千佳プログラムマネージャー、総合地球環境学研究所およびフューチャー・アースアジア地域センター事務局長のハイン・マレー教授を迎えました。初めに、話題提供としてフューチャー・アースの「持続可能な消費と生産」に関する『知と実践のネットワーク:Knowledge-Action Network』、EU諸国など各国の循環型経済に関する施策や制度、消費・生産システムに対する取組みの課題について紹介がありました。また藤田モデレータからは生活様式と社会の様式という2つのポイントの指摘があり、これらをどのように発展させていくか、コストはだれが持つべきか、倫理的側面、システム開発、空き家問題そして社会の役割などについて熱い議論がなされました。その中には、「十分である」「足るを知る」感覚の重要性についても指摘がありました。会場との討論では、参加者の挙手だけでなく、ツイッターを介した意見や質問も受け付けて活発な議論が行われた結果、多様な見方や意見を得ることができました。
さらに、パネルディスカッションに先立ち、フューチャー・アースの毛利英之コミュニケーション兼サイエンスオフィサーが、主婦および大学生がそれぞれ京都と東京で参加した事前ワークショップについての報告を行いましたが、大学生が「未来の衣類プロジェクト」として考案した、高機能かつ持続可能な衣類のイラストなども紹介され、パネルディスカッションにつながるユニークなイメージを与えました。
最後に、東京大学IR3S 福士謙介教授が、今回のフォーラムでは、最終製品の生産に至るまでの過程に消費する側の意志が影響することが認識されたことから、例えば食物を口にするとき、食材がそこに至るまでの様々な旅路をイメージしてほしいと述べて、シンポジウムを締めくりました。
「閉店セール」と「絶滅危惧種リスト」のこの全く縁のなさそうな2つの言葉の関連、「モノ」の所有よりも「いいね!」などに代表される「価値観の共感」が大切にされる感覚など、今回のフォーラムで、参加者は意外な発見をすることができました。循環型経済の実現へ向けて、生産から消費に至るそれぞれの立場で、私たち自身の行動を見直す必要があることが強く認識されました。
次回は、2019年2月2日(土)に、同じく東京大学安田講堂で、第3回フォーラムが開催されます。