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2011年9月27日(火)
地球持続戦略研究イニシアティブ(TIGS) 統括ディレクター・教授 住明正
2011年8月23~27日に、アメリカ・コロンビア大学のEarth Instituteの主催で、標記の会議が開かれ、筆者は、招待を受けて参加してきたので、会議の概要を報告する。招待の際の肩書はAGS (Alliance for Global Sustainability) Coordinatorであったため、AGSがよく知られていること、あるいは、IR3S/TIGSの知名度が十分でないことを痛感した。
会議は、イタリア・コモ湖のほとりの由緒ある大邸宅に作られたRockefeller Conference Center で行われた。なんでも、王女からロックフェラー財団に寄贈されたもので、建物や敷地は、15世紀、16世紀のものだと言う。寄贈を受けて財団がコンファレンスセンターに改築し、今日を迎えているようである。毎年、テーマを決めてコンファレンスを行うことと、滞在して研究に従事するレジデンスの2種類の活動が行われているようである。室内に本があり、そこにこれまで参加した人達の名簿が載っていたが、驚くほど日本人は少ない印象を受けた。筆者自身も全くこのことを知らなかったので、日本での知名度は低いと言えよう。ミラノ空港から、車で1.5~2時間程度の距離にあり、空港からは、ピックアップサービスに頼らざるを得なかった。もちろん、公共交通を使っても到着することはできるのであるが、相当に大変そうである。
Earth Institute(EI)から、所長のJeffrey Sachs、今回の提案者である副所長のPeter Schlosser、Sustainable Energy Centerの所長Klaus Lackner、コロンビア大学の環境に関する意思決定研究センター長(Center for Research on Environmental Decisions)のSabine Marxと4人も参加していたことで、EIの意気込みがうかがえた。その他の参加者は、Sachsの知人や、EIの関係者が多く、イギリスからは、核物理学者でITERの委員会の委員長を務めた科学技術会の大物(らしい)C. L. Smith、フランスからは、Institute for Sustainable Development and International Relationsの所長のL. Tubiana、ドイツのキールからは、以前にEIで助教授であったMartin Visbeck、そして、南アフリカからは、Stellenbosch大学のM. SwillingとSustainable Instituteの所長のE. Anneckeが参加していた。その他、インド・TERIのA. Mishra、チリからはGlobal Change CenterのF. Meza事務局長、ブラジルからはリオデジャネイロ大学のLuiz教授、中国の北京大学からS. Zhang教授、ナイジェリアからはI. Onyido教授が呼ばれていた。本当に、振興発展国からの研究者を集めていると感心した。 立場が微妙なのは、筆者とアリゾナ州立大学(ASU)のSanders、そして、オランダ ユトレヒト大学のWalter Vermulen准教授であろう。SandersはASUのM .Crow教授に言われて「EIがこの先どのようにしたいのか」を観察しに来たといっていた。
さて、議論は色々な方向に展開したが、基本線は、EIがAllianceを展開すると決めているようであった。特に、J. Sachsは2日目に大演説を行い「研究に関するアライアンスは多くあるが、教育に関するアライアンスは少ない。ICTを使って授業を公開し、ネットワークに参加した大学は無料で使うことができる、そういう時代が来る」と強調していた。
会議全体としては、各国が現状を報告し、「EIのお手並み拝見」という様子見の状況であった。また、具体的なFundingの話は出なかった。まずは、そこをあいまいにして次のステップに進もうとしているのであろう。今回の結論は「支持を得たので次のステップに進む」という予定通りの話で、来年、またConferenceをやる様である。
東大としては、AGSの15年の経験を紹介した。AGSとは、会社に対するWBCSD(World Business Council for Sustainable Development)と同様に、大学に対するWorld Academic Councilを作るべく、シュミットハイニーによる10億円の寄付にもとづくアライアンスであったが、今から振り返ると、彼の寄付の意味が大きかったことを再認識した。現実には、会社と違って大学のあり方は各国バラバラなこと、また、大学の研究者は自分の都合を最優先させることなどの理由から、成功しなかった。特に、AGSのあり方を巡り、スイスの主張する「赤十字」型モデルと、アメリカの主張するMIT中心主義との議論は、今から考えると意味が大きかったと思われる。なお、スイスの「赤十字」型というのは、AGSを独立した法人とし、広く大衆から寄付を集めると言うモデルであり、MIT中心主義とは、MITはMIT以外の誰からもコントロールを受けない、という立場のことであると思われる。また、資金面では、AGSとしての資金獲得を何回も試みたが、AGSは独立した法人ではないので資金を受け取れないこと、また、各大学は自分で獲得した資金は自分の大学に入れてしまうので、基本的に失敗に終わった。また、メンバーを増やして会費で運営するという方式も、「あまりに質の低い大学を入れるのはダメ」というような反対意見もあり、うまくいかなかった。結局、篤志家個人の寄付以外には可能性が低いと言うのが結論であった。このように、アライアンスをめぐる法的な位置づけや、資金面をめぐる経験など、東大が15年の間に得た経験は本当に貴重なものと思う。
さて、これからどうするか?であるが、参加者の多くは、言葉数も少なく、結局、様子見ということであったように思う。ASUのSandersが明確に、「ASUは自分の得になるのなら参加するし、得にならないのなら参加しない」と言い切ったのには驚いたが、それが本音であろう。結局、自分の利益にしたがって行動するしかない、というのが、国際協力の現実である。東大としても、ASUの動きを見ながら対応してゆくのが賢明と思われる。ともあれ、世界中でサステイナビリティが主要テーマになってきたという実感を受ける。中心テーマになったということは、内容が多様になるということなので、これからのかじ取りはシンドイものになりそうである。国際競争の舞台の上で、東大の旗を維持できるか否か、これからの頑張りにかかっていよう。