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2007年1月26日(金)
開催日 | 2007年1月26日 16:00-17:30 |
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会場 | 東京大学工学部14号館2階144講義室 |
『ノロウイルスを追いかける』
講師:片山 浩之氏(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻)
<概要>
ウィルス感染症の種類と歴史から、環境中のノロウィルスの挙動についての最新の研究成果まで水とウィルスに関する幅広い話題を提供していただきました。
ノロウィルスの耐性と感受性について。酸耐性(pH2.7 3時間)、熱耐性(60℃ 30分)を持つ。ノロウィルスの感受性は血液型によって異なる。すなわち、ウィルスの型によって感染する血液型と感染しない血液型が存在する。ただし、どの血液型にも感染する型は存在する。
ノロウィルス集団感染の事例とボトルウォーターへの混入論争について。
ノロウィルスと水道水指標(大腸菌群)の関連性について。病原性細菌の指標として用いられている大腸菌群数とウィルスの数には相関がない→大腸菌群数は、細菌性の水系感染症リスクの指標としては長い歴史と実績があるが、ウィルス性感染症リスクの指標としては機能しない。
ノロウィルスおよびその他感染性ウィルスの環境中での挙動について。東京湾での定点観測の最新の成果の紹介。
東南アジア(ベトナム・タイ)での調査の様子の紹介など。
片山先生へのインタビュー
片山先生の研究分野(微生物学、公衆衛生工学)からみたサステイナビリティとは?
日本では自分は複数の研究分野のちょうど境界にいると思います。サステイナビリティというと、一つは病原菌のサステイナビリティというのがあります。この病原菌のサステイナビリティを切ってなくすときに、人間のサステイナビリティはあがります。そしてもう一つ、人間社会のサステイナビリティがありますが、人間の命と健康の維持という問題においては、マイクロオーダーの薬の開発や滅菌、衛生的な器具の使用のために膨大なエネルギーと資金が投入され、膨大なごみが出されます。これは全体のサステイナビリティには逆行することだと思いますが、しかしながら当然の行為です。ここで全体を優先させると、人命軽視、人権侵害になってしまいますし、命の危機に直面する人たちは社会全体のことを考えていられません。そこで、生命、健康を脅かされ全体のサステイナビリティを考える余裕がない人たちを減らしていく、予防の部分が重要で、ここに貢献していきたいと思っています。それによって、全体の益にもつながっていきます。
日本、アジアが果たす役割は?
アジアは自然への見方がより自然だと思います。つまり、人間と自然がより近く、一体感があるということです。西洋では、キリスト教の教義に照らして因果関係を厳密に求めたり、プラスかマイナスかということをはっきりさせたがるきらいがあります。しかしアジアでは、自然の複合的な、色々な働きを考えます。自然界は生産系と同時に静脈系がしっかりしていて、そこに関与する生物も損しているとは思っていませんし、彼らの働きがないと他の生物の損害につながります。しかし人間社会では、経済活動が圧倒的に強く、静脈が弱いです。先の先、廃棄物をどうするかというところまで考えない部分で利益があるので、そこだけ進めがちで、ここをどうするかという問題があります。いずれにしろ、アジアの自然との近さというのは、大切な観点になってくると思います。
若者に向けてひとこと
最近の若者は知的興奮が少ないのではないでしょうか。与えられたこと、周りの目から見た「べき論」で進むのではなく、自分の知的興奮が得られたときにためらわずに突き進んでほしいです。保守的にならず、自分が自分に指示して動くスタイルを身につけていってほしいです。
大人に向けてひとこと
社会、そして大学自身も、まだ大学の知的生産能力を生かせていないように思います。教授が忙しく、自分の職や高級官僚的な仕事にうずもれてしまって、学生や学外の人が自由に来て語り合ったり、教授自身が幅を広げて知的に過ごせる時間が少ない状況にあると思います。というものの、自分の仕事に誇りを持っている人はかっこいいですし、そういう人が増えるといいと思います。