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2006年7月13日(木)
開催日 | 2006年7月13日 16:00-18:00 |
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会場 | 東京大学工学部14号館8階833会議室 |
『人口の高齢化とジェロントロジー』
講師:秋山 弘子氏(東京大学 総括プロジェクト機構 ジェロントロジー寄付研究部門)
<概要>
「ジェロントロジー」とは?:
高齢者や高齢社会全般に関わる諸課題を研究対象とする学際的学問分野。老年学の歴史は、寿命をどこまで延ばすことができるかという老年医学に始まり、人口高齢化の社会制度を扱う老年社会科学、Successful Agingに代表される生活の質(Quality Of Life: QOL)の追究、そして医学、看護学、生物学、経済学、心理学、工学など高齢者に関する多分野の融合による学際的学問としての老年学(Gerontology)と進んできた。今回は、専門である社会心理学からのアプローチでの発表。
人生の区分は第1期(子ども)、第2期(大人)、第3期(老人)であったが、20世紀後半の寿命革命により、第3期(前期高齢者)、第4期(後期高齢者)に分類されるようになった。新しいライフステージである第4期についてはまだ僅かしかわかっていない。
QOLの学際的研究においては、まずQOLの主要素である健康、経済、社会関係の加齢に伴う変化とそれらの相互関係を把握することが重要。約2000人の高齢者を1987年から3年ごとに追跡調査している全国パネル調査により、科学的データを体系的に蓄積しているが、それによると、15年後の健康度と強く関連する要因として、男性は「団体・グループへの参加」、女性は「精神的な自立」があげられる。
1978年にサイエンス誌で発表された論文「Successful Aging」を機に、高齢者に何が出来るかというポジティブな側面に光があたった。ここでの価値観は、「自立して生産的であること」とされるが、超高齢社会においては、中年期を人生の最後まで押しのばすことがゴールとなっていることや、自立を強調するあまり、生活が個別化し人のつながりが希薄化することが、この理念の問題点として指摘されている。日本は超高齢社会の先進国であるが、後期高齢期を射程に入れたSuccessful Agingの解は、実は東洋にあるのではないかと世界は期待している。
これまでのデータは東京大学社会科学研究所のSSJデータアーカイブから入手可能(http://ssjda.iss.u-tokyo.ac.jp/)。
秋山先生へのインタビュー
ジェロントロジー(老年学)におけるサステイナビリティとは?
高齢社会をいかにサステイン(持続させる)していくかが課題でしょうね。一つは健康であること、そしてもう一つは、高齢者を含むすべての人が能力を最大限発揮できる環境をつくっていくということ。これは心理学など高齢者個人を研究対象とするミクロな視点からの意見ですが、ジェロントロジーの中でも経済学など社会システムを研究対象とするマクロな視点からはまた違う見解があるかと思います。 たとえば、健康ということに関しては、寿命は延びたけれどもずっと寝たきりのお年寄りが増えています。実に国民医療費全体の40%は高齢者医療費に費やされているんです。また、能力を発揮するということに関しては、パネル調査でボランティアについて質問すると、80%の人がやりたい、と答える。でも実際は3%の人しかやっていない。つまり能力を発揮できる場、仕組みが整っていないんですね。
サステイナブルな高齢者社会に向けて変革していく原動力となる主体は?
これを変えていく原動力となるのは、やはり高齢者自身でしょうね。私がアメリカに30年近く住んで感じたことは、彼らは自分の住む社会は自分の力でつくろうと積極的に関与していきますが、日本人は与えられるのを待つ、例えば、いいボランティア・グループがあったらそこに入る、という傾向があります。でも自分の歩く道は自分たちで切り開いていく、自分自身がSuccessful Agingできるような環境を自らつくっていくことが大切だと思いますね。
日本、アジアが果たす役割は?
80歳以上の後期高齢者(あるいは新老人と呼んでもいいですが)と呼ばれる人々が多い超高齢社会におけるSuccessful Agingをどのようにして実現するかということに対しては、まだ誰も解を持ってないんですね。世界では、その解が東洋から出てくるのではと期待しています。東洋では「老いる」ということに対して、西洋とは見方が違います。これまでのSuccessful Agingは、自立的で生産的であることがsuccessfulだというプロテスタントの価値観から来ていますから。それとは異なる東洋の価値観に糸口があるかもしれません。
若者に向けてひとこと
Successful Agingは若いときに始まる!若いときは年をとることをあまり考えないですね。でも年をとるというのは高齢期に突如おこる現象ではありません。 Agingは生まれたときから始まっています。高齢期のSuccessful Agingはそれまでの人生における生活の積み重ねの結果可能になるものです。若い人たちにそのことを認識してほしいと思います。
大人に向けてひとこと
大人に、というのは中年層ということか、それとも高齢者に、ということ?どちらにも言えるのは、上から与えられる施策を待っていてはいけないということ。自分から道を切り開いていくこと。日本はどうもお上に頼る傾向がありますね。健康で充実した高齢期を迎えよう、それができる社会を自分達がつくってやろうじゃないか、という心構えが必要だと思います。