2019年4月1日をもって、サステイナビリティ学連携研究機構は、東京大学未来ビジョン研究センターに組織統合しました。本アーカイブサイトはリンク等が正常に機能しない場合があります。最新の活動状況は、IFIウェブサイトをご覧ください。
2006年6月2日(金)
開催日 | 2006年6月2日 16:00-18:00 |
---|---|
会場 | 東京大学工学部14号館1階141会議室 |
農薬等に関する食品中残留基準のポジティブリスト制について』
講師:加藤 保博氏(財団法人 残留農薬研究所 化学部担当理事)
<概要>
残留農薬の規制は「健康安全の確保」と「生態系および環境の保全」の確保を目的とし、食事を通じて人が摂取する残留農薬の量が、許容一日摂取量(ADI)の80%を超えないようにする、とされる。ADIは「人が一生涯にわたって毎日摂取し続けても健康に影響のない量(mg/kg体重)」。
農薬の最大散布回数,濃度,収穫前使用禁止期間等を定めた「使用基準」は、各農薬(製剤)、作物または作物群ごとに設定され、農薬使用者は遵守義務があり、違反には罰則がある。「残留基準」は、食品衛生法による食品規格の1つで、次の条件を満足するように設定される:①使用基準を守って農薬を使っていれば残留基準を超える濃度で残留しない、②使用基準、残留基準のもとで、人が食品から摂取する残留農薬は、ADIの80%を超えない。違反食品は輸入/製造/流通/販売などを原則禁止。
今年5月29日からポジティブリスト制がスタート。「人の健康を損なうおそれのないことが明らかであるもの」として厚生労働大臣が指定する物質(対象外物質)だけを対象外として、そのほかはすべて規制。対象となる物質は、「農薬」、「動物用医薬品」、「飼料添加物」。対象食品は加工品を含むすべての食品。それまでは、ネガティブリスト(厚生労働大臣が指定する物質以外は原則規制なし)であったため、新制度の意義は大きい。規制の一律基準は最終的には0.01ppmと決められ、①どの農作物等にも残留基準が設定されていない農薬等が農作物等に残留する場合、②一部の農作物等には残留基準が設定されている農薬等が、当該農薬等に関する基準が設定されていない農作物等に残留する場合に適用される。
ポジティブリストの反対論:ゼロトレランスにすべき!、ADIのあるものとないものは分けるべき!、0.01ppmでは厳しい!など。諸外国の一律基準の例は、米国(0.01-0.1ppm)、カナダ(0.1ppm見直し中)、ニュージーランド(0.1ppm)、ドイツ(0.01ppm)、EU(0.01ppm)。
加工食品については、国際食品規格であるCodex基準のあるものについてはそれを暫定基準とする。それ以外は個別に基準を設けず、残留基準に適合した原材料を用いているものは原則流通可能。
残留農薬等の分析法については、厚労省では平成18年3月末までに573農薬等の分析法を開発済と発表しており、まだ約200はできていない。分析法については施行後も引き続き検討し、暫定基準全体見直しに反映させることになっている。機器が異なると測定限界は数倍~数十倍の差を生じること、機器・農作物・暫定委基準・定量限界によっては適用できない場合があること、農薬への適用可否の検証の必要性、多成分一斉分析法では一律基準に対応困難な農薬が少なくないこと等が問題。分析法の評価指針についてはまだ作成中の段階。
今後の課題:分析法の整備。農水省では、農薬散布時のドリフトの注意や、農薬使用基準の遵守についての指導を行うなど、チェック体制の整備が必要。今後、分析法の整備や、風評被害の防止などの対策が求められる一方、農薬の選別や、食品産業での系列化、民間分析機関の過当競争などが進んでいくものと考えられる。
加藤先生へのインタビュー
食の分野におけるサステイナビリティというと?
難しい質問だね。日本では食べ物をたくさん残したりしているけれど、一方では飢餓に苦しんでいる子供たちもいる。今後世界で人口が増えて、その分の食糧をまかなうことをどうするかを考えないといけないだろう。環境汚染の問題や農薬の問題もあるが、バランスを考えて行っていくことが必要。一方ではあまりに厳しすぎるほど管理をしているが、一方では野放しになっているということではいけない。農薬に関していうと、健康への影響がないレベルであれば使用していくということだが、それをどこまで許可をしてどこまで規制をかけるかということが大事なところ。
そこでリスクをどう考えるべきか。国民レベルで理解できるような教育が必要。リスク評価を行ってはいるが、消費者の意識との差を縮めることが必要。自分達が生きていく上で何が必要なのかということについて、子供のときから教育の中で考えられるようにすること。
そのために、まず情報公開をしっかりすること。これまでは隠されていた部分もあるが、今では多くの情報は公開されるようになっている。今度は受け手が情報をしっかり理解、判断できるかどうかが問題。そういう意味で、学校もだが、マスメディアがしっかり事実を伝えることも大事。
若者に向けてひとこと
大学で非常勤講師をしていてよく言うことだけれども、自分の頭で考え、自分の目でデータを見て判断し、確認し、結論を出すこと。メディアや情報をうのみにしてはいけない。
大人に向けてひとこと
自分がどうこう言うような立場ではないけれど・・・。自分の知っていること、わかっている範囲はそんなに広いわけではない。けれども、限られている力だが精一杯尽力していく、ということが大事だと思う。